設立趣意

環境思想・教育研究会 設立趣意書

研究会発足準備会・代表 尾関周二(東京農工大学名誉教授)

「環境の世紀」と言われる21世紀になって、地球環境の一層の深刻化と環境・自然保護への関心の深まりとともに、環境思想や環境教育の研究・実践に関して は、いずれも最近の発展はめざましいものがある。学問の発展が専門分化をもたらすことは止むを得ないことともいえるが、しかし専門分化というものが著しい 弊害をもたらすこともこれまで繰り返し語られてきたところである。環境問題に関していえば、限度を超えた専門分化は、重大な意味において問題への適切な対 応を誤らせる可能性もあることを認識すべきであろう。

環境哲学を核とする環境思想は、西欧近代思想の根底からの乗り越えといえるだけでなく、哲学そのものの存在理由に対する反省をも迫る非常に原理的な性格を もっている。そしてまた、環境思想は従来の環境哲学・環境倫理学から、政治学、経済学、社会学、科学技術論等々の思想的エッセンスを学際的に包含しつつ、 新たな学問分野として形成されつつある。この点は積極的に評価されるべきであろう。しかし、環境問題のその性格からして、環境思想は学問的な抽象的な議論 に終始するのでなく、やはり社会的実践、とりわけ環境教育実践に結びつくことが不可欠であろうと思われる。

また逆に、環境教育は実践の強調にとどまるのでなく、その深い環境思想的裏打ちを必要とするであろう。環境教育が、今日その重要性が認識され、企業や種々 の社会団体にまでその関心が広がって行く中で、環境教育がある種の方便になっている状況もあり、真剣な関心を持っている人たちには、その事の必要性は一層 認識されつつあるように思われる。この点は、カントがその主著『純粋理性批判』において「概念なき直観は盲目であり、直観なき概念は空虚である」と述べて いたことを思い起こさせるかもしれない。環境思想に裏打ちされない思慮なき環境教育実践は、逆効果もありうることを明記すべきかもしれない。

本研究会は環境思想の多面的で一層深い研究に力点をおきつつも、思想と実践のかかわり、とりわけ、環境教育との関係に留意して研究を進めようとする点や、 また多様な環境運動に関してもその思想的側面のみならず、教育的側面にも留意していく点に、そのユニークさがあるといえよう。その際に、インターネットに 代表される情報化の成果の積極的活用や広く国際交流という視点、そして種々の学問分野において環境問題に関心のある研究者や実践家との積極的な交流という 視点を大切にしていきたいと考えている。

以上のような意味において、実践を念頭において環境思想を研究しようとする者とともに、思想の重要性を認識して環境教育を進めようとする者の交流の場ともなることが望まれる。